酒場巡りの楽しさにどっぷりと浸かり、
気がつけば飲酒行為だけの為に旅をするようになってしまった昨今。
同様の楽しみを分かち合う先輩お酒マンたちと酒場ディスカッションを重ねると、
だいたい話題になるのが
『大阪の酒場は酔いよ』
といったこと。
なかでも日本三大ドヤ街のひとつ西成は、
『どんどん変わってきてるから早めに行った方がいい』
なんて意見は本当に良く耳にする。。。
ならば行っちゃいますか、、、
万博で混み出す前に、
初めての大阪酒場へGO!



初めて降り立つ大阪の地は
昭和レトロ好きな僕にはどこもかしこも香ばしく、
酒場のツラ構えを眺めているだけでワクワクが止まらない。



賑やかな新世界の界隈を通り抜け、
西成エリアに差し掛かるとますますその色は濃くなり、
次第にメッセージ性も強いものとなってくる。。。

『居酒屋で覚醒剤を売るな!』
コインパーキングの看板には、
駐車場の代金よりも
おチューシャの代償を伝える特殊なメッセージが貼られている。
以前よりはだいぶマシになったとは言え、
まだまだ危険地帯であることを再認識させてくれる光景だ。
ふらりふらりと一帯を散策していると
今度はやたらと横長な暖簾をロックオン。

暖簾の向こうにある引き戸は6枚で、
その幅が一般的なサイズの85cm程度とすると、
軽く5m超えの大暖簾だ。

この圧巻の暖簾にグッと来ないハズもなく、
ド真ん中を割っていざエントリー!



店内は10席程度のカウンターのみで、
可愛らしいお母さまが1人で切り盛りされてるご様子。
OHS(オカズの入ったショーケース)がカウンターのド真ん中に鎮座し、
刺身に果物に納豆、6Pチーズとなんでもござれ。

OHSのツマミたちも気になるが、
おでん鍋もこっちこっちと誘ってくる。

それよりももっと気になるのが
隣にある怪しげなナベ。

排水溝をお掃除したあとなのだろうか。。。
恐る恐る伺うとおでん用のダシだそうだが、、、
まぁまぁのインパクトだ。

おでんのダシを野菜から取るってのもなかなか珍しく気になるところだが、、、
んー、、、
これは吉と出るのか凶と出るのか。。。
まずは大瓶を頂き瓶提灯をキメ、
くぃーっと喉を濡らし、
ふぃ〜〜っと深呼吸。。。

すいませんっ、
おでん下さいっ!!
“冒険なくして宝は手に入らず”
酒場もRPGの基本に則るべしだ。

おでんのメニューボードを眺めると見慣れないメンツがちらほら。
平てん?
うめやき?
どうやら関西特有のおでん種のようだ。

知らないツマミはツマむべし。
お母さま、
厚揚げとソレ下さいっ!

平てんとは関東で言うところのさつま揚げだったが、
うめやきは初めましてだ。

割ってみるとふわっふわな断面で、
関東で言うところのハンペンに近い。
これがまたダシを良く吸い込んでいて、
ひとクチ頬張ればじゅるりと口腔内で広がっていく。

なるほど、これはただのおでんダシではない。
いわゆる関西風うす味の、
さらにうっす〜いところでかすかに野菜の甘みを感じられる、
おでんと寄せ鍋のド真ん中、
ハイブリッド系おダシだ。
この贅沢贅沢していない感じが初めてなのにたまらなく懐かしいぜ。

絶妙なバランスのやさしい西成の味覚に舌鼓を打っていると、
お隣カップルの彼女のボルテージが少しづつ上がってきた。
『こいつなぁ、ホンマしょーもないねん!』
僕がナゾの野菜ダシに震えてるあたりからなんとなく聞こえていたのだが、
ずっと楽しそうに揉めている。
こいつなぁ、
結婚もしてないのになぁ、
別れた女にがっぽり慰謝料持ってかれてなぁ、
ホンマしょーもないねん!
・・・。
でなぁ、
お金無いから親に借金しててなぁ、
ホンマしょーもないねん!
・・・。
ボコボコにされ続ける彼氏。
ニコニコとお母さまがそれを聞いてらっしゃる。

どうした彼氏、
言われっぱなしじゃないか。
何か言い返さないのか?
サンドバッグ状態の彼氏がどう返すのかと耳をダンボにしていると、
おもむろにお母さまの方を向き、重たい口を開いた。
あのぅ、、、
ハンバーグひとつ。
・・・ハァ〜???
ハンバーグとか、
ホンっマしょーもなっ!
いやいや、
ハンバーグはしょーもなくないっしょ!!
これには思わず僕の方が脊髄反射で反応、
初めて現地で関西人にツッコんだ瞬間だった。
ここのハンバーグ美味しいんですよ〜
と彼氏。
じゃあせっかくなんで、
僕にもハンバーグお願いします♪

ちなみにこのカップルは去年初めてここを訪れ、
その日が偶然にもお母さまのお誕生日だと言うことを知り、
ちょうど一年後の今日、
誕生日プレゼントを持って遥々京都から再訪したとのことだ。
来年のお誕生日はここでオレらの結婚式やろっ!

誰がどう見てもわかるぐらい
酒のチカラを借りて大風呂敷を広げ始めた彼氏。
ホンマかぁ〜?
とまんざらでも無さそうな彼女。
ホンマや!
来年絶対ここでやったる!
お兄さんも絶対来て下さいよ!
絶対ここで結婚式やるんで、
再来年絶対来てくださいよ!
いや、
1年増えてるやんっ!!
コイツ、ホンマしょーもなっ!
まだまだ賑やかな漫才が続きそうだ笑

とりあえず瓶提灯でもやりますか!
お母さまにも少しお話しを伺うと、
このお店の開業は1970年で、ちょうど前回の大阪万博の年。

今は亡きご主人と切り盛りしており、
当時はやはり今よりもずっと物騒だったとのこと。
たまにな、店の前でな、
ヤクザみたいなんが嫌がらせしてくんねん。
営業妨害っちゅうやつや。

でな、お父ちゃん出てったらケンカになるやろ?
せやから私が出て行ってどかすねん。
あの人らも女の私には絶対に手ぇ出さへんからな。
よぉそんなんやってたわぁ。。。

こう見えてなかなかの肝っ玉カァさんで、
今でもタチの悪い客はバシバシ追い出すそうな。
そんな頼れる西成のおかん的なお母さま。。。
あのう、、、
ハンバーグまだでしょうか?
シロートの僕なら提供したであろう焼き上がりから、
まるで忘れていたかのようにフライパンの上で30分寝かせ、

まるで温め直すかのようにレンジで仕上げを施され、

ジラしにジラされたマルシンではないと言うハンバーグ。
悔しいけど美味すぎたぜ。

他の常連客曰く、
おでん4つ頼んだら3つは違うものが届くこともザラだという
驚異の正答率25%のミステリーセレクトをかましてくれるゆる系のお母さま。
厨房の中で転倒してお顔に青タンを作ってしまっているのがとても痛々しかったが、
その笑顔の癒し度は紛れもなく100%だ。

僕もまた来年、
おケガの癒えたお母さまのお誕生日祝いと
このしょーもなカップルの結婚祝いに来れればいいなと
今からもうすでに次の3月9日が楽しみな
西成の人情酒場だった。



能登屋
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