ちょっと遅い夏休みをとって今回は山梨県へ酒場巡り。
台風10号の影響もあって直前までどうしようか悩んだが
意外と行けそうな感じだったので思い切って中央自動車にライドオン!
松任谷由実の中央フリーウェイをBGMに土砂降りの中を滑走し、
まずは若奴食堂さんで腹ごしらえ。
大きく書かれた若奴や
いらっしゃいませ
サントリーの外観のみならず
店内の壁一面に貼られた短冊メニューにもグッとくる。
豊富な短冊たちをぐるりと舐め回すように眺め、
5周目ぐらいでようやく決めたのは
結局いつもと同じナスミソとハムエッグ。
なんやかんやビンのアテにはこういうのがいい。
これらで腹の虫を黙らせてから向かったのは、
甲府駅南側のDEEPな歓楽街。
あちらこちらに昭和の香りと色香が漂う。
今宵の酒場はそんな欲望が渦巻くビル群のなかのひとつ、
春日ビル1番街の地下バー街と書かれた
レトロ看板が指し示す螺旋階段の先に鎮座する。
事前にこの店の存在を知らなければ到底辿り着けないであろう立地だ。
仮に辿り着いたとしても、
この情報量が皆無な扉を押すには余程の勇気が必要だろう。。。
ンギィィィ・・・
そこそこの緊張感を感じ、静かに扉を開けると
そこはまるで地下洞窟のような空間。
壁にはずらりとボトル達が並ぶ。
そう、ここはいわゆるバーで、
地上のオトナの欲望とは無縁の
大人のオーセンティックなBARだ。
数字が書かれた下駄箱のようなスペースがとにかく印象的で、
伺いたいことは南アルプスの山々ほどあるが、
まずは喉を濡らそうじゃないか。
ちなみにここにはメニューは無い。
ついさっき、若奴食堂の豊富な短冊メニューで悩みに悩んだが、
メニューが無いのもこれまた悩みどころ。
ここはマスターにお任せして、
辛口でお願いします
とだけ伝えると
チョコレートの香り漂うショートカクテル
ルシアンを選んで頂いた。
食後のデザート感覚でちょうどいい。
ひと息ついたところでマスターにお話を伺ってみると
開業は大阪万博の年、1970年で創業55年目とのこと。
かつて東京プリンスホテルでシェイカーを振っていたマスターが、
このビルの開業前から予約をしてここを選んだそうな。
気になるあのスペースは下駄箱ではなく、
常連さんの鍵付きのリザーブボトル入れ。
30人だけの特別なスペースで、
もちろんどの場所がどの客かは全て把握されている。
僕がウイスキーが好きだと伝えれば
酒棚の奥から“特級”表記時代のボトルを並べてくれるなど
物腰柔らかで聞き上手なマスターとの会話は
時間がいくらあっても足りないほどだ。
当然、酒もススム。。。
カウンターの上にある柑橘類が気になったので
オレンジを使ったやつで何かありますか・・・
とお願いして選んで頂いたのがスクリュードライバー。
ネジ回し(スクリュードライバー)でかき混ぜたことがネーミングの由来で有名なあれだ。
これが僕の中にバチンっときた。
めちゃめちゃグッッッときた。
いや、わかるよ、スクリュードライバーなんて
ただのオレンジジュースとウォッカでしょって。
その通り。
その通りなんだけど、そうじゃない。。。
僕が人生で初めて美味しいと思えたアルコールが
このスクリュードライバー。
周りの仲間はビールだの日本酒だのと盛り上がっていたが、
あまり飲酒が得意じゃ無かった僕は
口当たりのいいスクリュードライバーが好きだった。
やがて飲酒の幅が広がるようになり、
趣向が変わるにつれてこの酒と疎遠になってしまったが、
何十年ぶりに再会した今夜のそれは全くの別物だった。
安物のオレンジジュースではなく、
フレッシュオレンジで頂くとこんなにも違うものなのか。
その驚きに呼応するかのように、
ひとくちごとに当時の思い出が溢れてくる。。。
ずっと忘れかけていた、
箱にしまわれていたかのような思い出たちだ。
マスター、、、
マスターのスクリュードライバーで
僕の中の思い出箱のネジを緩めちゃいましたね。。。
見知らぬ町のセピア色のバーで
深く、深く、、、
酔いしれた夜だった。
酔い酒場というのは
こういう体験をさせてくれる場所を言うんだろうな。。。
馬酔木『あしび』
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